　いつからだろう？おまえの方が先になって歩くようになったのは。そうして時折振り向いて、オレを窺い、小さく笑う。
「何へらへら笑ってんだよっ。バッカじゃねぇの？よそ見してっと、けっつまずいて転んじまうぞ！」
オレはなんだかこそばゆくて、いつも悪態を吐いてしまうんだけど、決してイヤだって訳じゃないんだ。
　初めて会った頃は、オレが引っ張り回してた。オレが先に立って歩いて、頼りなく付いてくるおまえを、時々振り向く。するとおまえは、ニッコリ笑うんだ。やっぱりオレは悪態吐いてた。
「ニタニタしてんじゃねぇ！ボォッとしてるとヘケランに喰われちまうぞ！」
おまえは黙って頭を掻いたっけ。

　セルジュ。
初めておまえの名を聞いたとき、どうしても一緒に旅したいと思った。
どうしてだか、わかんねぇけどな。
フラフラしてるおまえをほっとけなかったし。
こうしておまえと歩いてると、身体のどこかがあったかい。
先へ進むのが怖くない。
セルジュ。
おまえって不思議なヤツだな。
ヘラヘラしてるのに、なんだか安心する。

こうして一緒にたき火を囲んで、オレがチラリと目を向けると、すぐにおまえは笑い返す。
オレが照れくさくてふくれると、また下を向いて含み笑い。
「チッ。」
オレが軽く舌打ちすると、おまえは小さく声を上げて笑う。
オレのこと、笑ってるんだろう。
でも、腹は立たねぇ。なんだかホッとする。
こんな、なんでもないやり取り。
繰り返される些細な会話。
あったかいのはたき火のせいだけじゃないって、本当は判ってるんだ。

ずっとずっと、そんな風に、おまえの笑顔を見ていたかった。
オレたちが出会ったのは、仕組まれたことだったと知っても、セルジュ、おまえに会えてうれしかったよ。
セルジュ、生まれてきてくれてありがとう…。

別れじゃねぇんだ、これは。
会いに行くからさ、世界中さがしても。
だからこれは別れなんかじゃねぇんだ。
ちょっとだけ、離ればなれになるだけのこと。
会いに行くよ、きっと。
セルジュ、おまえの笑顔に―――。

終わり