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　戦いは緊迫していた。メンバーと、相手の属性の組み合わせが悪かったのだろう。思わぬ長期戦となり、エレメントは尽きつつあった。
「ちくしょう！　まだくたばらねぇのか！」
カーシュが肩で息をしながら憎まれ口を叩く。セルジュは体力的に劣るため、そんな余裕さえない。職業上、戦い慣れしているはずのイシトが、頬を引きつらせて敵を見据える。彼らはそれぞれに、一旦戻ってエレメントを補充しなかったことを悔やんでいた。
　敵は緑龍。カーシュは属性の関係でダメージをそれほど受けないものの、イシトには通常攻撃さえ致命的になりかねない。だが、逆に黄色属性のイシトの攻撃もまた、緑龍にとってはいちいち応えているはずだった。
「小僧！！」
意識が朦朧としていたセルジュが、ついにフラリと倒れた。カーシュがキュッと口元を結ぶ。緑龍は勢いに乗って、イシトに向かって突進し始めた。
「……イシト！！」
カーシュが叫ぶ。この上イシトまで倒されては勝ち目はない。カーシュは思わず、庇うようにイシトの方に駆けだした。彼の知る限り、イシトの持つエレメントは尽きたはずだった。彼の使う黄色属性のエレメントが緑龍に有効だと思ったために、序盤に連続して使用しすぎたのだ。だが、イシトは正面に緑龍を見据えて微動だにしない。
「バカヤロー！！　よけろ！！」
イシトは近付いてくる緑龍に向かって、静かに右腕を持ち上げた。こんな時だというのに、彼は落ち着き払って銃を構えているのだ。
「イシトー！！」
カーシュは悲鳴に似た声を上げた。
　彼、イシトは、テルミナを占領したパレポリの士官だ。出会い頭に、いきなり手ひどく罵った。だが、セルジュを通じて知り合うにつれ、そうした憎しみはかき消えていった。表だって親しくするのはさすがに気が引けたが、それでも、イシトとは戦友だと互いに認識している自覚はある。
「バカッ！　早く逃げろ！！」
カーシュは悲痛に顔を歪めて叫んでいた。
　まるでスロー再生を見ているようだった。イシトの蒼い眼が、敵を見据える。ゆっくりと持ち上げられた右手の銃をピタリと宙に留め、その蒼い眼が照準を合わせる。軽く左肩に首を傾げ、イシトの右人差し指が引き金を引く。
　フルショット。引き絞られたかのようなイシトのオーラが、銃声と共に緑龍に撃ち込まれ、緑龍の躰は、ゆっくりと地に倒れた。
　それを眼にしながら、カーシュは呆然と立ち尽くしていた。安堵の気持ちと、奇妙な苛立ち。対してイシトは、フーッと大きなため息を漏らし、わずかに口の端を上げた。
「おまえ……今のは……」
初めてフルショットの威力を眼にしたカーシュが、イシトを見やる。イシトは、その薄い唇にかすかな笑みを浮かべ、カーシュを見返した。
「今のは何だよ！　俺は初めて見たぜ」
イシトはまた、薄く笑った。
「フルショット。私のレベル７固有技だ。先にアナザーの私から受け取ったのを、君は知らなかったのか？」
「知るわけ無いだろうがっ。心配して損したぜ！　そんな技を取っておいたとはな！」
イシトは、やはり薄く自嘲した。
「……まあ、私も使ったのは初めてだ。正直、威力がどれ程か、この一撃で倒せるかは未知だった……」
「ってこたぁ、おまえ、かなり無茶なことをしたんじゃねぇか！」
カーシュの言葉に、イシトは人ごとのように、あごに手を当て首を傾げた。
「……そういうことになるか……」
「むがががががが……！」
あまりに冷静なイシトに、カーシュが唸る。
「バカヤロー！　やられてたらどうする気だったんだ！　……いつも先を見てるおまえらしくねぇじゃねぇか……」
イシトは黙って、じっとカーシュを見た。
「……何だよ。文句あんのか？」
イシトが小さく笑った。
「……君は、良い漢（おとこ）だな……」
カーシュはカッと頬を赤らめた。
「……んだと！？」
イシトは口元に笑みを浮かべたまま、カーシュを見つめた。
「君は、良い漢（おとこ）だ」
「んなこと言って、俺をバカにしてんだな？」
イシトはちょっと眉を寄せつつ微笑んだ。
「……褒めてるんだ」
「おまえの言いようじゃ、褒められてる気がしねぇ！」
「やれやれ……」
顔を真っ赤にしたカーシュの剣幕に、イシトはクルリと背を向け、小さく肩をすくめた。
「あ！　やっぱり、その態度は俺をバカにしてるな！？」
イシトは背を向けたまま、抑揚のない声で答える。
「してない」
「してるだろうよっ！」
「してない」
「むががががが……！」
いきり立つカーシュを後目に、イシトはセルジュを助け起こした。
「セルジュ、大丈夫か？」
「うん……」
セルジュがゆっくりと身を起こす。
「この野郎！　俺を無視する気だな？」
端でカーシュががなり立てる。セルジュが気遣わしげにイシトを見上げた。
「……カーシュとケンカでもしたの？」
イシトはクスリと笑った。
「……カーシュに、君は良い漢（おとこ）だって言っただけさ」
セルジュはクスッと笑った。
「ああ、照れてるんだね……」

Ende．　