　何万年もの間、たった一人で僕を待っていたの？
　紡がれていくたくさんの命の鎖を見つめて、その命の果てに、僕が生まれるのをひたすらに待ち続けて―――。
　君のその想いが、やがて僕を生み出させたのか、それともいずれ生まれ出る僕の存在が、君のその想いを生じさせたのか。
　僕は君の灯火（ともしび）だった。かすかに揺らめく遠い灯火。
　君の想いは祈りにも似て、僕が生まれるずっと前から、僕の魂に染み込んだのかも知れない。
　だって、僕は君を知っている。初めて会うのに、こんなにも君に惹かれる。君の想いは、とうに僕に届いていた。僕が生まれる前から、僕が死んだあとにも、僕の魂の奥深くに君の想いは生き続けるのだろう。
　今、僕は解った。僕がキッドを大切に想うわけも、僕がここまで歩いてきたわけも。

　どうか、その眼を開いて！その瞳で僕を見つめて！そのためだけに、ここまで来たんだ。

　何万年もの君の孤独を思えば、僕は運命を許すことが出来る。これまでの僕の苦しみも哀しみも、君の想い故だと知れば、どうして僕はこの運命を呪えようか。
　僕が、たとえ君のためだけに生まれたのだとしても、それでも、僕は君に出会えた事で、この生に感謝することが出来る。

「生まれてきてくれて、ありがとう。」

その言葉を胸に、僕は新しい自分の生を生きるだろう。君が約束してくれたから。

「会いに行くからさ、世界中さがしても。きっと。きっと……。」

FINE

何も見えない。
何も聞こえない。
果てのない時の闇の中で、何もかも無くしてしまいそうだった。
自分の名を忘れ、過去も忘れ、心さえも無くしてしまうと思った。
もう少し、あとほんの少しあのまま漂っていたら、「私」は消えて、自分自身を失っていたのかも知れない。

忘れてしまいたかった。
故国をこの手で打ち壊してしまった過ち。
消えてしまいたかった。
呪わしい力を秘めた、この私。

でも、私はあなたを見つけた。
闇の中に瞬く、小さな小さな命の明滅。
何故、私はあなたに惹かれた？
あのまま何も見ず、何も聞かず、何も考えずにいたら、私は望み通り、この闇に溶けてしまえたのに。

呼んだ？
私を―――。

弱々しく、本当にかすかだけれど、私はあなたの声を聞いた。
長い長い時の中で、すべての感覚が摩耗し、目も耳も奪われたと思っていたのに。
あなたを知ったときから、いちどきに見え、聞こえ始めた、幾千、幾万、幾億の命。

もう、何も私から奪うことは出来ない。
あなたの命の瞬きは、私の鼓動。
この想いは私だけのもの。
誰にも奪うことの出来ない、私だけの宝石。

私は祈り続ける。見つめ続ける。
気の遠くなるような、たくさんの命の連鎖―――。
この命の一つ一つが、やがてあなたに届くように。
名前さえ知らないあなたにいつの日にか出会い、同じ生を分かつ時を夢見て―――。

ＦＩＮＥ．

言い訳（「祈り」）

クロノクロスのピアノの楽譜集を買いました。練習を重ねて、エンディングの「盗めない宝石」を弾きながら歌えるようになりました。そして「消せない想い」も。
弾いていると、何かが心をかすっていくんです。それをなんとか言葉にしたくて、しばらく考えていましたが、やっぱりうまくいきません。
少しでも、伝えられたらいいのですが。
先日の「運命～さだめ～」で描いた、セルジュの迷いへの、一つの答えです。
少なくともラスボス戦時点では、セルジュに、もう迷いはなかったと思うんです。
もちろん、そうするしか「星」を救えないという大義名分があったにしても、サラへの想いもあったからではないかと。…本当のところ、設定とか、納得しきれないこと多いんですけどね。
何万年も待ち続けたサラ。遠いセルジュに想いをはせながら。それだけを支えに、祈り続けたサラ。その切なさが、セルジュには届いていたと思いたい。
ラスボス戦時のセルジュの気持ちを、ちょっと、いや、かなり思い込みで描いてみました。
イカンね、年寄りは感傷的で（笑）。

言い訳（「私だけの宝石」）

セルジュ（「祈り」）とサラ（「私だけの宝石」）の相聞歌（そうもんか）です。
呼応する魂。
どうしてこう、感傷的になってしまうんでしょう？
やっぱり年なんだなぁ(^^ゞ
本当は、こうした想いが生み出したのがキッドという実体ですよね。サラの願望の結晶ともいうべきキッド。だから根本でサラの想いに支配されている。では、彼女自身というのは、キッド個人の思考とかというのは、どうなっているんでしょう？なんだか可哀想な気もします。
「宝石」という言葉を、無理に使ったのは、やっぱり「盗めない宝石」ですから（笑）。ホントは題名も「盗めない宝石」にしたかったのですが、あんまりそのままだからやめました。私の中で、知る人ぞ知る「ラジカル・ドリーマーズ」のラストが下敷きにあるのですね、きっと。