「おい。何ぐずぐずしてやがるんだ！」

　先頭を歩くカーシュが、堪りかねたようにイライラと声を上げた。カーシュのすぐ後ろに続くセルジュの更に後方を、周囲を見回しながらゆっくりと進むイシトに、カーシュはずっと苛立ちを募らせていたのだ。

　イシトは、やはり来たかという面もちで、軽く肩をすくめた。

「最後尾を固めるのが、習い性になっている。状況を見渡し、部下のし損じがないかチェックし、背後からの攻撃に備える。それが私の、隊長としての務めだと思っている」

　どうせカーシュのようなタイプの人間には、こうしたイシトの考えは理解しがたいだろう。イシトはそう思いつつも、一応の説明を試みたのだ。

「みみっちいなぁ」

　案の定、腰に手を当てて、カーシュはフンと鼻を鳴らした。

「男はだなぁ、黙って俺についてこい、だ」

　そう言って誇らしげに胸を反らせたカーシュに、イシトは、蛇骨団旗を掲げ、先頭に立って突進するカーシュの勇姿が見えるようだと思った。必要とあらば、敵の攻撃などお構いなしに突撃するだろうカーシュ。その姿に、彼の部下たちは勇気づけられ、ためらわずにその背に続くのだ。その様子が自ずと思い浮かび、イシトは思わず眼を細めた。

　だが、カーシュはムッとした顔をした。

「あ、馬鹿にしてやがるな！？」

「え？」

　カーシュは、イシトが笑ったのを、自分を嘲ったのだと思ったのだ。いつも相反する意見の二人だ。無理もない。

　イシトは慌てて否定した。

「馬鹿になどしてない。君らしいと思って、微笑ましかっただけだ」

「それが、馬鹿にしてんじゃねぇか！」

カーシュは肩を怒らせ、ドスドスと足音も荒く早足で歩き出した。

「どうせ、俺は猪突猛進だよ！」

あまりに一方的なカーシュの物言いにあっけにとられていたイシトは、やがてクスクスと笑いながら後に続いて歩き出した。

あくまでも先頭を進む君。後ろに続く私。
許されるものならば、君と肩を並べて歩きたい。

私たちは知っている。
私は君になれない。君は私になれない。
決して交わらない私たち。

違いすぎる私たちだけれど、束の間の寄り添う時空の中で、せめて肩を並べて歩こう。
始終、口論が絶えなかろうと、それが君と私。
それが、本来出会うはずのない私たちに許された在り方。

絶えず衝突を繰り返しながらも、それでも結構気分が良いな。
いくら言い合っても、ケンカをしても、今はもう、敵ではなく戦友だから。

Ende．