ピエール番外編

「いいですか！勇者たる者・・・・・・」
エルニドで一番と言ってもいいほどの都会、テルミナ。この街には都会と言われるだけあって、色々な店が軒を連ねている。もちろんそれだけ店が多いのだから各店の間での競争も激しい。今、勇者を名乗る人物が居候中の、ザッパの鍛冶屋も例外ではない。
「ですから！勇者とは日ごろの精進があってのものなのです！」
「・・・・・・なぁピエール。お前いったい何してんだ？」
と、町の子供たちを鍛冶屋の庭に集め、精進などと言いながらスナック菓子（ベビースターラーメン）の袋を片手に、熱っぽく力説していた男の側に、そそくさと近づいてきた金髪の少女が聞いた。
「ですから勇者とは金がすべてであって、地獄の沙汰もマネー次第と・・・・・おや！キッド殿ではありませんか！」
「子どもに何教えてんだよ！！！」
そう言いながら、キッドと呼ばれた少女はピエールから菓子袋を奪い取った。
「な！なにをするのです！私はただ！子どもたちに、"分子レベルにおける小林幸子の衣装と宇宙の神秘の関係"を、折れ線グラフを交えつつ、わかりやすく説明していただけなのに！」
「んな関係知るかっ！！」
キッドは持っていた袋を自分の後方へ投げ捨てた。
「あぁ！！私の大切なミッシェルがぁ！！！」
「名前をつけるなっての！！」
ピエールは、土の上に散乱しているベビースターラーメンを惜しそうに見つめていた・・・・・・・が、急に何かを決心したかのように目を見開くと、
「麺とスープがドンピシャ！」
「知るかっ！！」
そうこうしてる間に、集まっていた子供たちは巻き添えを避けるため、いつのまにか誰一人いなくなっている。キッドは一瞬自分も帰ろうかと思ったが、伝言を受けていたのを思い出し、しかたがなくその場に踏みとどまった。
「おい！ピエール！ザッパからの伝言だ！！」
何処からかクシと鏡を取り出し、髪型をセットしていたピエールだが、それを自称"エレガントなハット"の中に入れ、それをそのままかぶった。
「お前の帽子の中身って・・・・・・」
キッドがピエールに疑いの視線を向ける。
「ノープロブレム！！そんな事を気にしてはいけません！そんな事より、私に何か伝言ですか？」
なんだか拍子抜けしたキッドだったが、とりあえず伝える事にした。
「ああ。なんでも、『お前が家賃を払わないのなら、うちの店の客寄せをしろ』だそうだ」
それを聞いて、ガックリと肩を落とすピエール。
「なんと言うことでしょう・・・・・。勇者である私が客寄せなどという、野蛮で下等な事などするわけ・・・・」
「あ、ひとつ言い忘れたけど、『もし嫌だと言ったら、お仕置きを・・・・」
「お、お仕置き！？ひょっとして、３日間食事ぬきとかですか！？」
ピエールが身を乗り出して聞き返す。
「いや。『火あぶり、市中引き回し、もれなく打ち首獄門、ついでにイースター島に島流し』だそうだ」
「さて！今日も商売でんがな！バリバリ売りまっせー！！」
ピエールは寝返った。

「・・・・・・・・で。これは違う気がするんだけど」
ザッパの店の前に、ちょうどお祭りの露店のような形で店を出し、けっこうその気になって鼻歌などを歌っているピエールに言う。
「なにを言いますか！！客よせと言えば！実演販売！！これで決まりです！」
などと言いながらどんどん商品を並べだす。やはり武器・防具屋だけあって、並べている商品もその系統の物が多いのが特徴的だ。なぜか商品の端の方には、ピエールの生写真らしき物も見えるが、あえて触れないでおこうとキッドは心に決めていた。しばらく商品を眺めていると、ふとある疑問が浮かんできた。
「・・・・・・なぁ、ピエール。お前、セールスなんてやった事ないんだろ？俺が客になってやるから、一回実演してみろよ」
「オー！それはいいですね！ではさっそく・・・・・・」
と、ピエールは並べてある商品のうちの一つ、すでに骨董の域に達している盾のような物を手に取った。
「さて！いらはい！いらはい！ここに取り出したるは、ななななんと！！」
「その喋り方なんとかならないのか？」
しかしピエールは聴かなかった事にして続ける。
「かのニセモーノ国の王、サギシデース四世が愛用していた・・・・」
「なんか、いかにもインチキってゆー名前だよな」
「ノンノン！名前で判断してはいけませーん！さて、これこそ！愛用していた盾・・・・・・に、多少似てなくもない気がしたりしなかったりするけど、やっぱり関係ないただの盾です！」
ズルッとキッドがこける。
「だめじゃないかー！！！」
「いいえ！！この盾をただの盾だと思ったら大間違い！！犬も歩けば盾にあたると言うではありませんか！！」
ビシッとキッドを指差す。
「うーん・・・・・・」
キッドはしばらく理解に苦しんだが、とりあえず聞いてみる。
「・・・・・・で、どの辺が普通の盾と違うんだ？」
「ふっふっふっ・・・・・。よくぞ聞いてくれました！なんとこの盾は！・・・・・・・まな板に使えるのです！！！」
「・・・・・・・・・・てい！！」
バキッ！！
キッドが無言でその盾に空手パンチをくらわせると、あっけなく真っ二つに割れた。
「ななななんと言うことを！！！！！」
「うるさい！！！なんでまな板なんだよ！！」
「何を言いますか！もしかしたら戦の最中に無性に玉ねぎの微塵切りがしたくなるとか、そーゆーような事があったらどうするのですか！！」
「あるかぁぁぁ！！！！」
今度はピエールに向かって強烈なキックをヒットさせる。そのままピエールは空の彼方へ・・・・・
「あぁ～れぇ～～今ならピエールサイン色紙もつけてこのお値段なのにぃぃぃ・・・・・・・・・」
キラン。
ピエールは夜空のお星様になった。

数日後。キッドは、ピエールが火星人相手にサギまがいの商品を売りつけて、宇宙指名手配になったと言う噂を聞いたが・・・・・
「・・・・・・まぁいいや」
とつぶやくキッドだった。

その頃ピエールは・・・・・・・
「・・・・・・・・・・ですから、分割払いは３回から・・・・・・」

終わり