王都なでしこ２

　パーティーは夜６時からのスタートだったので、その時間を中心に各界の著名人達が続々とフィガロ城に押し寄せ始めた。各国の王族、貴族、軍人、政治家、俳優、大物実業家。彼らにはどこか華があり、豪奢なエントランスに乗り付けたチョコボ馬車から着飾った姿で降りてくるのがよく似合う。一流ブランドが似合わない記者陣は庭先で有名人達を待ち伏せし、ガードマン達は見苦しくないよう正装で目を光らせている。５０人編成のオーケストラは、砂で楽器が台無しにならないよう大ホールに配置され、目を見張るばかりの豪華なオードブルと共に雅やかな気分を盛り上げた。
（それだけ楽しみがいがあるってことさ）
　ふざけ半分でオーケストラに混ざったエドガーは、ソリスト席でヴァイオリンを弾きながらそう思った。
（さあ、彼女に協力したことが吉と出るか凶と出るか。確かに楽しみではあるが…　まったく、とんだ博打だぜ）
　今はまだゆったりとしたワルツだ。だがフィガロの砂漠を讃えるにはチャールダーシュがいい。ジプシーの女達が、情熱と快楽に灼かれて躍る、切ったら血が噴き出すような、あの激情のサウンド。昨夜の彼女そのものでもある。

「あなたしか頼れる人がいないの」
エドガーは彼女に頼られて得意な反面、この状況が楽しくて仕方なかった。そういえば、この恋多き国王を自負する彼も、まだ１対１で彼女とプライベートな話をしたことなんかなかった。フィガロは帝国と同盟国だったので、実は仲間になる前から何度か会っている。彼女は覚えているだろうか？　昔は、あの若さでの将軍職というプレッシャーにがちがちに肩肘張った態度があったし、ティナを除けば世界で唯一の魔法使いだというプライドが見え隠れしていて、とっつきにくくて、氷のように冷たい女とばかり思っていた。実に勿体無かった。仲間と死線をくぐり抜けて変わったか、ロックが変えたか、これが本来の彼女なのか、とにかく女は化けるものだ。美しいセリス。
「こんな真夜中に好色と名高い国王の自室に尋ねて来て頼み事とは、どんな勘違いをされてもおかしくない状況だって分かってるのかな？」
　エドガーは半分本気でふざけてみせた。
「馬鹿なことしてるのは分かってるのよ。でもそれだけ切羽詰まってるってことよ。マッシュやカイエンは頭使うの苦手そうだし、シャドウは話してもくれないし、ストラゴスはリルムに悪影響出るって反対するし、ガウは問題外だし、ティナに至ってはトランプ見たことないって言ってたわ。今あなたが助けてくれなかったら、わたし…」
懺悔室で告解を聞かされる神父はこんな気分なのだろうか。俺は悪い神父だな。彼らはただ悔い改めることを勧めさえすればいいが、そんなにつまらなく終わらせるには、彼女はあまりに勿体なさ過ぎる。それに、禁欲を常とする彼らなら、目の前のネグリジェ姿の金髪美女の誘惑に負けるまま行動しようなどと考えるのはもってのほかだろう。なかなか面白くなってきたじゃないか、と彼は目の前で神の救いを待つ子羊然としたセリスに聞こえないように呟いた。色香で神を魅了しようとする、悪い子羊ではあるけれど。
「はっきり言うわ、エドガー。私、カードはあまり強くないのよ。まるっきり初心者ってわけでもないけど、勝った記憶なんて数えるくらいしかないわ」
　真夜中なのを意識してか、セリスの声はあくまで低く、逆に落ち着きさえ感じられ、その困り顔が演技じみて見えるのが気に入った。本人にそのつもりがないとしても、困ったことに、エドガーは男を騙そうとする女の悪あがきが実は大好きだ。
（やれやれ、だったらなんでそんな勝負を受けたんだかな）
　ロックのいない寂しさに耐えかねて、他の男に乗り換える口実が欲しかっただけじゃないのか？　素直に俺にしておけばややこしくなくて済むのにな。彼女の様子は結構真剣なので、そうからかいたいのを一応やめておく。エドガーはテーブルの上の氷の入ったグラスにブランデーを少しだけ注いでセリスに勧めた。王の自室はもちろん豪華で、そこに常備されている酒もはっきりと高価な逸品だったが、彼女は味わいもせずに一気にあおって、グラスをエドガーの目の前に勢いよく差し出した。
「…ロックだぞ」
「お願い、今はその名前だけは聞きたくないわ」
「じゃなくて、飲みたいんなら水か何かで割った方がいい。悪酔いするぞ」
「酔えるもんならとっくにべろべろに酔いつぶれて死んでるでしょうね。でもセッツァーとの対戦は明日なの。ポーカーの５回勝負で、そのうちの一回でも勝てたら私の勝ち。相当なハンデだけど、でも賭け事は彼の土俵だもの、どう見たって分が悪すぎるわ」
（ギャンブラーにギャンブルを挑む方がギャンブラーだ）
　実は今の"５回勝負"という言葉から思いついたことがあったが、顔色一つ変えないセリスが既に酔っ払っているんじゃないかと疑わせるような媚びようでエドガーに懇願するので、彼はなんとなく勿体ぶりたくなった。
「ねえエドガー、昔、同じようなことがあったわよね。セッツァーが私と女優のマリアを間違えた時よ。あの時は、あなたが貸してくれたコインのおかげで勝てたのよ。またあの時みたいな必勝法はない？　お願い、これは最後の手段なのよ」
「人にものを頼む時は」
　エドガーは悪戯を思いついた悪ガキのように笑ってみせた。
「見返りを求められることを想定した上での交渉が必要なんだが」
「分かってる」
　彼女は即座に返事をした。
「助けてくれたら何でもするわ」
（やはり、酔っ払っているのかな）
　それなら別にいいし、そうでなくても別にいい。どちらにしたって、たいした違いはないだろう？　ロック、彼女を放っておくお前が悪いんだ。エドガーは立ち上がった。立ち上がり、彼女の手を取り、その手からグラスを置かせて、声に少しだけ本気を滲ませて囁いた。
「それじゃあ、俺の案が絶対だと証明するために前払いで頼もうか。俺の求める報酬は……」

（後払いは期待出来るかな？）
　気が付くと曲は終わっていて、エドガーは割れんばかりの拍手を浴びていた。彼がヴァイオリンを下ろすと、美しく着飾った招待客達が次々に彼に挨拶しようと寄って来る。その中にティナ達の姿を見つけ、エドガーは思わず各国の要人達を無視して声をかけに行った。

　ナルシェの新興石油成金と名乗るフォレスト・タール氏は、人気オペラ女優のマリア嬢をエスコートしてやって来たので目立った。白いタキシードを着て胸に赤いバラをさしているが、フォワグラになる前のガチョウのように太っているのでちっとも似合っていなかった。背は高くない。そう低くもないが、踵の高い靴を履いたマリア嬢に見事に抜かされていて哀れですらある。陰気な褐色の目を隠すようにかけられた分厚いメガネはいかにも成金らしく金と宝石のフレームで出来ていて、ぱっとするところのないフォレスト氏の顔から浮いているようであった。何もかもがどこかズレたフォレスト氏の装いの中で唯一、微々たる量の褐色の髪をバーコード模様になでつけている、その髪型だけは似合っていた。マリア嬢とすれ違った時にセリスかと思ったリルムは、隣を歩くフォレスト氏の方に思わず目を奪われていた。彼女はここまで不細工な男を見たことがなかった。
（あーあーセリスってば、金持ちだからいいってもんでもないだろーに。実はデブ専？　こりゃ後で修羅場だね）
　リルムは声をかけようか迷ったが、オケのソリスト席でエドガーが演奏を終えるのを見てそちらに駆けだした。彼女にしてみれば、大人のゴシップなんて、それくらい興味のないことなのである。

to be continued…
　
　

あとがきというか駄文というか

　ハーイ、日本全国のジークファンのみんな、元気にしてた？　前回からの続きをちょっと楽しみにしててくれた？　ｍaxellの筆があんまり遅いんでイライラしてた？　おっと、前回の内容なんて覚えてないなんて言わないでくれよ！　ラジオ・コーリンゲン71.8Ｈｚ、パーソナリティは謎のさすらい剣士ジークフリードでお送りするクラウド・ナイン、電話番号はいつものとおりのxxx-xxxx-xxxx！　オーケイ、じゃあ前フリはそのくらいにして一枚目のおハガキだ。ペンネームは真っ昼間は不潔ちゃん。椎名蜜柑のファンなのかな？　ジークさんこんばんはー。はいこんばんわー。突然ですが私は今までオリキャラというものを出したことがありません。今回初めて名前のあるオリキャラを出してみましたが、とんでもないブサイクになってしまいました。お、珍しいケースだねー。美形しか書かない人ってたまにいるじゃない？　なになに、私だって本当は記念すべき一人目くらいカッコイイキャラにしたかったんだけど、自分で読んでてそんな奴いてたまるか！ってカンジで、友達に言ったらあんたブサ専なんじゃないのって言われて超ショック！私はどうしたらいいですか？　そうだなー、別にいいじゃない、フケ専だろうがデブ専だろうが、男は中身だよ、中身。でも本当にカッコイイキャラ作りを目指すなら俺を出して！　え？　ジークさんて本当は強いの弱いの？　ははは、どっちだろ。じゃ、そんな不潔ちゃんに送る一曲目。リクエストありがとう、ノーザンオールスターズで「かきピーのＧ★ＳLOT」