黒き風～スワン～

　ネオパレポリの連絡場所が点在する繁華街を歩きながら、"11"は不機嫌だった。
「とんだとばっちりだよ。君と一緒に、俺までこんな仕事なんてさ。なーにが恋人同士だよ！」
「それはお互い様でしょ！」
みんなの前では笑顔を絶やさないマクセラも、相手が"11"とあって、遠慮なくふくれっつらをしていた。
「でも、ま、初仕事ですもの、仕方ないわ。せいぜいがんばって、何か情報を手に入れなくちゃ」
マクセラは"11"の腕に自分の腕を絡めた。"11"は慌てた。
「何すんだよ！」
「恋人同士でしょ！　だったら腕くらい組まなくちゃ」
だが、"11"はその腕を振りほどいた。
「デートの途中でけんかした恋人同士！」
マクセラは小さなため息をついて肩をすくめた。"11"はマクセラにはかまわず、さっさと足早に歩く。マクセラは小走りで後に続いた。
「ねぇ、"４"と"５（フュンフ）"って、恋人同士でも、いつも一緒ってわけじゃないのね」
"11"は振り向きもしないで答える。
「当たり前だろ。任務は各々の適正に合わせて割り振られるんだ。あの二人はコンビを組むことも多いらしいけど、恋人同士なんて関係ないよ！」
「ま、ムキになって！　でも"5"って素敵よね。私好みだわ。明るくて優しくて、あなたと違って大人だし」
"11"はムッとしたが、無視して歩き続けた。"11"にしても、密かにライバル視しているとはいえ、朗らかで男気のある"５"は好きだった。おまけに"５"は生来のフェミニストで参謀本部の女性達の人気も高い。"４"との関係が知られていても、バレンタインともなれば山ほどのプレゼントを貰うのを、"11"も聞き知っていた。マクセラは、そんな"11"の気持ちを知ってか知らずか、お構いなしに続けた。
「誘惑しちゃおうかな、私」
"11"はピタリと足を止めた。"11"についていくために早足で歩いていたマクセラは、勢い余って"11"の背中にぶつかった。
「やだ、急に止まらないでよ！」
"11"は振り返って眉を寄せた。
「…何、バカ言ってんだよ」
「あら、あなたにとっても悪い話じゃないと思うわよ？　そうでしょ？」
"11"は頬を染めてマクセラを睨んだが、マクセラは図星だろうと言うように、不敵に微笑んだ。"11"は苦渋の表情を浮かべた。
「君は…"４"に取って代わる気か？」
マクセラはそれには答えず、フイッと横を向いて歩き出した。
「あなた、情報収集がイヤなら帰って良いわよ！　私一人でビッグニュースを仕入れてみせるから」
"11"は大きな溜息をついた。いくらマクセラが優秀とは言え、こういった仕事は初めてなのだ。本当の所、この半月、彼女にしても無理を重ねているのに違いない。"11"は小走りにマクセラに追いついて、その肩を抱くようにして手を掛けた。マクセラが驚いて"11"の顔を見上げる。"11"は怒ったような顔をわずかに赤くしてそっぽを向いた。
「任務は任務だからな…！」

～続く～